未経験からエンジニアになって最初にぶつかる壁は、技術力ではありません。「何がわからないのかが、わからない」という状態そのものです。いわゆる「わからないことがわからない」状態です。
私は30代で、未経験からエンジニアに転職しました。配属直後に待っていたのは、動いている既存のシステムと、その背後にある大量の前提知識です。会話に出てくる用語の半分は初耳で、コードを開いても「どこから読めばいいのか」すらわかりませんでした。
その状態は今も続いていますが、この方法がいいかも。
と思ったことがあるので共有します。
それは、この記事で紹介する「わからないことリスト」をAIと一緒に作り、優先順位を付けて上から潰すという方法です。
特別なツールは要りません。AIチャットとスプレッドシートだけで、今日から再現できる手順としてまとめます。
最初の失敗: 「体系的に学ぼう」としておぼれた
配属された当初、私は真面目に「基礎から体系的に学ぼう」としました。
入門書を買い、基礎力をつけながら全体像を掴んでから実務にのぞもうとしたのです。
これがうまくいきませんでした。理由は今なら明確です。
- 入門書の内容と、目の前の既存コードがつながらない。現場のシステムは教科書通りには作られていません
- 学ぶべき範囲が広すぎて、終わりが見えない。全体像を掴んでから、の「全体」が毎週広がっていく
- その間も実務は進むので、「勉強しているのに追いつけない」焦りだけがたまる
知らない分野の全体像は、知らないうちには設計できない。当たり前のことに気づくのに、しばらくかかりました。
そこで発想を逆にしました。理解の地図を先に描くのではなく、「今の自分がわかっていないこと」の棚卸しから始める。
手順①: 「わからないこと」をAIに吐き出して、盲点ごと洗い出す
最初のステップはAIとの壁打ちです。私はClaudeを使いました。ポイントは、きれいに整理された質問をしようとしないこと。頭の中のモヤモヤを、そのまま書き出します。
私が実際に使ったのは、こういう形のプロンプトです。
私は未経験からエンジニアになったばかりで、既存のシステムを担当することになりました。
今わかっていることは次の通りです:(わかることを箇条書き)
実務でこのシステムを扱えるようになるために、「私がまだわかっていない可能性が高いこと」を、
質問リストの形で網羅的に挙げてください。技術面だけでなく、開発の進め方や暗黙の前提も含めてください。
自分で思いつく「わからないこと」は氷山の一角です。AIに挙げさせると、自分では気づけていなかった盲点がリストに入ってきます。
たとえば私のリストの上位には、こういう種類の項目が並びました(固有の内容は伏せて、種類として再構成しています)。
- このシステムは全体としてどういう構成で動いているのか(どこで動き、どう本番に反映されるのか)
- この画面に表示されているデータは、どこから来てどこへ行くのか
- 会話に出てくるあの用語は、業界の一般用語なのか、チーム内だけの言い回しなのか
- 作業環境を壊してしまったら、どうやって元に戻すのか
4つ目のような項目は、入門書には載っていません。
でも新人が本当に怖いのは、まさにこういうことです。「わからないことを質問の形にする」だけで、漠然とした不安が「調べれば潰せるタスク」に変わります。
実際にこの壁打ちをすると、AIはこんな粒度で質問を返してきます(やり取りの一例。固有の内容は伏せています)。
AI: 理解の助けになりそうな質問を、確認しておくと良い順に挙げます。
1.(全体像)このシステムは何のために存在し、主な利用者は誰ですか?
2.(データの流れ)ある画面に表示される情報は、どこから来て、どこへ保存・反映されますか?
3.(用語)会話に出てくる「◯◯」は、この分野の一般用語ですか、それともチーム内の呼び方ですか?
4.(安全策)作業環境を壊してしまった場合、元の状態に戻す手順はありますか?
5.(進め方)変更を加えてから本番に反映されるまでの流れはどうなっていますか?
こうして「質問の形」で返ってくると、漠然としていた不安が、1つずつ調べれば消せるタスクに変わります。
手順②: スプレッドシートに落として、AIと優先順位を付ける
洗い出した項目は、スプレッドシートに落とします。列はシンプルで構いません。
| 列 | 内容 |
|---|---|
| わからないこと | 質問の形で書く(「◯◯とは何か」「◯◯と◯◯の違いは」) |
| 優先度 | 高・中・低の3段階 |
| 状態 | 未着手 / 調査中 / 解決 |
| わかったこと | 調べた結果を自分の言葉で1〜3行 |
優先順位付けもAIに手伝わせます。リストを貼り付けて「実務に入ってすぐ困る順に並べ替えて。理由も添えて」と頼むだけで、たたき台ができます。
最終判断は自分でしますが、ゼロから悩むより圧倒的に速いです。
ここで大事なのは、シートを作り込まないことです。目的は綺麗な管理表ではなく、「自分が今どこにいるか」が一目でわかる状態を作ることです。
実際に少し埋めていくと、こんな見た目になります(記入例)。
| わからないこと | 優先度 | 状態 | わかったこと |
|---|---|---|---|
| 変更はどういう手順で本番に反映される? | 高 | 解決 | 管理画面から手動で反映。反映まで数分かかる |
| 「◯◯」という用語の意味 | 高 | 調査中 | チーム内の略語らしい。正確な定義は要確認 |
| 作業環境が壊れたときの戻し方 | 中 | 未着手 | — |
| このデータは他のどこで使われている? | 低 | 未着手 | — |
一度に全部を埋める必要はありません。「解決」の行が1つずつ増えていくこと自体が、前に進んでいる証拠になります。
手順③: 上から1つずつ潰す。ルールは3つだけ
あとは優先度の高い順に、1項目ずつ「わかったこと」列を埋めていくだけです。私が自分に課したルールは3つです。
1. 1回に潰すのは1項目だけ。 まとめて調べると、どれも中途半端になります
2. 調べた結果は、自分の言葉で1〜3行に要約してから書く。 要約できないなら、まだわかっていないということです。コピペで埋めたくなったら赤信号です
3. 調べる途中で出てきた新しい疑問は、その場で追わずリストの末尾に追加する。 未経験分野の調べ物は芋づる式にわからないことが増えます。「リストに戻す」を徹底したことで、私は以前より迷子になりにくくなりました
3つ目のルールがいちばん効きました。以前の私は、ひとつ調べ始めると関連リンクを何時間もさまよって、結局「今日は何がわかったんだっけ」で一日を終えていたからです。
変わったこと: 「聞き方」が変わると、周りの反応も変わる
この方式に切り替えてから、体感で大きく変わったことが3つあります。
- 着手までの迷いが消えた。「次はリストの一番上」と決まっているので、席に着いてすぐ手が動きます
- 進捗が見えるようになった。「解決」の行が増えていくのが目に見えるので、「今日も何もわからなかった」という感覚がなくなりました
- 先輩への質問の質が上がった。「全然わからないんです」ではなく「リストのこの項目を調べて、ここまでは理解したんですが、この一点だけ確認させてください」と聞けるようになりました。質問の解像度が上がると、返ってくる答えの解像度も上がります
未経験者にとって3つ目は特に大きいはずです。「何もわからない人」から「自分の現在地を説明できる人」に変わると、周囲のサポートの受けやすさが目に見えて変わりました。
まとめ: 才能ではなく、手順の問題
「何がわからないのかがわからない」は、能力不足ではなく、単に棚卸しをしていない状態です。
1. AIとの壁打ちで「わからないこと」を質問リストの形で全部吐き出す(盲点ごと)
2. スプレッドシートに落として、AIと一緒に優先順位を付ける
3. 上から1つずつ調べ、自分の言葉で要約して埋める。新しい疑問は末尾に追加
完璧な学習計画は要りません。まず、頭の中のモヤモヤを10個、質問の形で書き出すところから始めてみるのはいかがでしょうか?
この記事は、私自身が未経験からエンジニアになり、実務にキャッチアップした際の実体験をもとにしています。所属組織を特定できる情報は含めず、内容を一般化して記載しています。
※日々試行錯誤しながら、壁にぶちあたりながら改善していくため、今回共有した方法は変更していく可能性もあるのでご注意ください
ここまで読んでいただきありがとうございました。